っ気ない返事は故意だ。


「その・・・だからね・・・」
「薫殿。いっそ
接言ったらどうでござるか」
「え・・・」
「見合い」
「!」
「図星でござるな」

「・・・どうして分かったの?」
「その着物
召し物。誰が見ても明白だ」
「こ、これは妙さんに無理やり着させられて・・・」

そう呟き、数回瞬きをして押し黙る。

いつもよりも桜色に染まる頬と唇。
高く結って簪で飾った艶やかな黒髪。
帯で締められた細い腰には、妙から借りたのだろうか、
小さな鈴つき根付が彩を添えている。

こんな格好を見たら、誰だって言葉を失うだろう。
艶やかな色に包まれた彼女は輪をかけて美しかった。
でもそれが俺の為では いのなら。

「あ・・・あのね。どうしてもって頼まれたの。
赤べこの御贔屓さんにお願いされたんですって。
どうして私なんかと会いたいのかさっぱりだけど。
ほら、一度会えば向こうだって気づ」


「拙者は構わんよ」


小さく息を飲む彼女。
その真っ直ぐな視線に耐えらず目を伏せる。
違う。
彼女が求めているのはこんな言葉ではない筈。
決してこんなことを言い い訳でもないのに。
誰か、俺を止めてくれ。これ以上残酷な言葉を吐き出すのは。

    
「だか 楽しんでくると良い」


こうして踵を返す俺を呆然と見つめているであろう彼女が
そのままずっと俺のことだけ視野に入れていればいい
と思う。


遠くで鈴が、ちりんと音を立てた。