「あら?剣心、お知り合い?」
「知っているも何も・・・」
「剣を交えた仲。ですよね」
「「ええ!?」」
薫と弥彦の声が合わさる。

「ま、まさか『そうじろう』って・・・」
「十本刀の瀬田宗次郎のことじゃ・・・」
「お察しの通りです」
全くもって笑顔を崩さない青年に、呆気にとられる二人。

「しかし、何故また東京へ?」
同じく突然の来訪に驚きを隠せない剣心が静かに尋ねる。

「志々雄さんに代わる答えを見つける旅の最中なんですよ。
足の赴くまま移動していたら、此処に辿り着いちゃいました」
「とか言って寝首をかきにきたんじゃあないだろうな」
「やだなあ。今となっては緋村さんは恩師です」
「そうだったの・・・。じゃあ剣心とは旧友ってとこなのね」
「はい」
「なら良かった。さ、上がって」
「薫殿?」
「長旅だったようだから、泊まってもらおうと思って連れてきたのよ」
「お邪魔します」
「おい。いいのか?剣心」
「あ、ああ。薫殿を助けてくれたお礼もしたいでござるし」






「へえー宗ちゃん、剣道もできるの?」
「はい、よく稽古していました。刀とはまた違う精神が鍛えられますし」
「うんうん、そうよねっ」
きゃっきゃとはしゃぐ上機嫌な少女に、
ニコニコしながらそれに受け応える青年。
それを前に黙々と箸を進める男共二人。
そのうち一人はもう片方の反応をニヤニヤ楽しんでいるのだが。

「ねえ宗ちゃん。明日、稽古をつけてもらえないかしら」
「か、薫殿。それはちょっと・・・」
ついに口を挟む剣心。
「何よー。いいじゃない。ね?」
「お安い御用です」
「やったぁ!だって誰かさんはちーっとも相手してくれないし」
「拙者は竹刀は苦手でござるから」
「薫が料理しないせいでそんな時間もねえしな、剣心?」
「弥彦は黙ってて!・・・ほらね宗ちゃん、いつもこんな状態なのよ」
「それはいけませんねぇ。薫ちゃんきってのお願いなのに」
「宗ちゃん、もっと言ってやって!」
初対面だというのにこの意気投合ぶり。
どうやらこの二人は気が合うらしい。
薫ちゃん。宗ちゃん。とまるで幼馴染のように呼び合う。
そんな微笑ましい光景に、妙な苛立ちを拭えない男が約一名。





その夜。


「ねえ、本当にここでいいの?隣の部屋もあいているのよ」
「ええ。緋村さんとゆっくり話がしたいですし」
「そう。じゃ、おやすみなさい。明日楽しみにしてるわね」
「僕もです。おやすみ、薫ちゃん」
「おやすみ、薫殿」


「で、話とは?」
「そう刺々しくならないでくださいよ緋村さん。あはは、分かりやすいなぁ」
「分かりやすいって、何がでござるか」
「緋村さん、薫ちゃんのこと好きですね?」
「な、何をいきなり」
「あれー?違うんですか?」
「いや、そういう話ではなくて・・・」
「僕は大好きです。薫ちゃん」
「!?」
「優しくて、正義感があって、おまけに可愛くて。
今日一日ですっかり惚れこんじゃいました。
あんな子が傍にいてくれたらいいのになぁ」
「・・・薫殿に対してそう思う輩は掃いて捨てるほどいる」
「そうなんですか?よし!僕も頑張らなきゃ」
「何を?」
「恋敵は少ない方がいいじゃないですか」
「お主、冗談はほどほどにするでござるよ」
「本気です」


「僕、分かったんです。自分に何が足りないのか」
急に真剣な目を覗かせる青年。
「あれからずっと一人で旅に出ました。
志々雄さんのこと、由美さんのこと。いろいろ考えました」

自分を模索する為の果てしない旅路。
そうして辿り着いた答えは。

「僕には、生涯寄り添いたい存在が必要です」

守るべき誰かが。その者と育む人生が。
その延長線上に築き上げる、家庭が。
一度は自らを奈落に陥れた共同体にこそ、
彼にとって理想的な剣の道が存在するのだ。

「いつぞや緋村さんが教えてくれたこと。人を守ることの意味。
それが、ようやく僕にも分かってきました」

隣の布団に寝転ぶ剣心はそれを静かに聞いていた。
一度は敵だった相手と思想を共有するとは。
宗次郎とは、奥底で通じ合う何かがあるのかもしれない。

「薫ちゃんはまさに僕が理想とする女性です」
――しかしこの一言に、剣心は再度現実に引き戻される。

「どうして急にそこに飛躍するのでござるか」
「だってあんな素敵な女性、なかなかいませんよ」
コロリと寝返りをうち、目を合わせながら宣戦布告。



「緋村さんのものじゃないのなら、僕がいただきます」